例会の報告

カトリック広島司教区光教会　神父　肥塚 侾司　様

人間のしわざ

「せ・ん・そ・う・は・に・ん・げ・ん・の・し・わ・ざ・で・す」

凍てついた2月の朝、広島平和記念公園に、教皇ヨハネ・パウロニ世の力強いはっきりとした日本語が響きわたりました。史上初めての教皇の来日にあたっての歴史的なメッセージが、いきなり日本語から始まることを誰が予想してたでしょう。その場にいたすべての人が驚かされ、一挙に好意的な空気が公園を包みました。1 9 8 1年2月2 5日。忘れることができない日となりました。あの日から42年が過ぎ去りました。教皇ヨハネパウロニ世のこの「平和アピール」は、それからのわたしの生き方に大きな影響を与えました。カトリック広島教区の司祭として歩んでいく日々に、今も、大切な道しるべとなっています。教皇ヨハネ・パウロニ世のことばで、一番印象に残る刺激的なのは、やはり、「戦争は人間のしわざ」ということばです。とりわけ、「人間のしわざ」。「人間のしわざ」ということばは、人間がどのような存在であるかを考えさせるものです。「広島と長崎だけが、人間とは信じられないほどの破壊をやってのけるものだということを思い起こさせる」と教皇は指摘します。教皇は、「平和アピール」で、「強制収容所や民族抹殺のための収容所」のことも言及しています。自らが若き時代に体験した第二次世界大戦中のホロコースト・ユダヤ人大虐殺も「人間のしわざ」によるものでした。人類は、便利で豊かな生活を実現するために、その能力の限りを尽くし科学や技術を発展させてきました。「核エネルギー」は一つの極限であり頂点です。それを大量殺人兵器として使ってしまったのです。「19 4 5年8月6日、広島」は、人類が自滅する可能性を目に見えるかたちであらわした出来事です。信じられないほどの破壊をやってのけた「人間のしわざ」です。しかし、教皇ヨハネ・パウロニ世は、人類史上最初の核兵器が使用された爆心地で、勇気をもってアピールしました。「人類は自滅すべく定められているものではありません」。「戦争をひきおこすのも人間だが、その同じ人間が、立派に平和を創り出すこともできるのだという信念を、力強く表明します」。教皇ヨハネパウロニ世の信念と呼びかけ、そして、善を行い正しいことを選択する人間の能力への信頼は、4 2年が過ぎ去った今も色あせることなく輝いている、わたしたちが歩むべき「平和への道」を照らす道しるべです。