例会の報告

広島文教大学 人間学科部グローバルコミュニケーション学科 教授 松原淳一様

広島県は農耕に適した平野が少なく、交通の利便性もそれほど優れているわけではないが、楽天的で勤勉で情報感受性の高い県民性により、戦前は軍需産業、戦後は高度経済成長の波に乗り、中四国地方最大の工業県、商業県になった。

豊かになった広島県だが、現在、いくつかの理由から変革期を迎えようとしている。

第1に、広島県は人口減少社会に入った。広島市の人口はなお増加しているものの、間もなくピークを迎えると予測されている。広島は拡張・スプロール化の時代から縮小・コンパクト化の時代へ入りつつある。

第2に、広島県は自動車・造船・鉄鋼などの製造業を中心に発展してきたが、海外現地法人を設立する企業が増えている。製造業は輸出拡大から海外生産にシフトしつつある。

第3に、原爆ドームや厳島神社などに海外から多くの観光客が訪れているが、昼間の観光が中心で宿泊客が少なく、一人当たり観光消費額が少ない。観光ビジネスは遅れている。

第4に、広島市中心部は高度成長期に発展したが、街全体として老朽化が進んでおり、都市として、再開発を進める必要が出ている。

第5に、広島県から若者が流出し人口が減少している。若者に魅力ある街、人が集う賑わいのある街を創造する必要がある。

そのための提言として、平和公園、宮島、広島神楽、音楽（ライブ）、スポーツによる交流人口の拡大を提言した。詳細は「広島の経済」により確認していただきたいが、キーワードは、「本物志向」である。音楽はCDで聴くものからライブで楽しむものになり、野球はテレビでみるものから球場に足を運ぶものになり、世界遺産や伝統文化といった本当に価値のあるものには人が集まる傾向が強まっている。

この時期に、広島市中心部の紙屋町・八丁堀地区が都市再生緊急整備地域に指定されたことの意味は大きい。成長するか衰退するか、広島はその分岐点にある。